2026.01.28
2026年は午年。
馬にまつわる神社はたくさんありますが、なかでも福島県にある「相馬中村神社」「相馬太田神社」「相馬小髙神社」は、相馬三妙見神社として馬と深い関係がある神社です。
そして、その3社が執り行う「相馬野馬追」は、千年もの歴史を持つと伝わる、馬にまつわる神事。戦国絵巻を思わせる荘厳で迫力ある神事は、まさに午年にこそ見ていただきたい、すばらしいお祭りです。
そこで今回は、馬にまつわる3つの神社と、数々の困難を乗り越えて今なお伝わる神事「相馬野馬追」、そして数年前に相馬野馬追を見に行ったレポートをご紹介します。

相馬野馬追は、福島県相馬地方で開催される神事。
かつては初夏の風物詩として7月に開催されていましたが、猛暑対策で5月最終週の3日間に開催される行事となりました(2026年は、5月23~25日に開催予定です)。
その起源は千年以上前、相馬氏の祖とされる平将門が、下総国で野馬を敵兵に見立てて軍事訓練を行ったことに始まると伝えられています。
現在は相馬市にある3つの神社、相馬中村神社・相馬太田神社・相馬小髙神社の「妙見三社」の合同祭礼として営まれています。
祭りは、甲冑に身を固めた約400騎の騎馬武者が旗指物をなびかせて進軍する「お行列」から始まります。
最もにぎわうのが、雲雀ヶ原祭場地で行われる迫力満点の「甲冑競馬」や花火で打ち上げられた御神旗を奪い合う「神旗争奪戦」。そして、最終日には小髙神社で、裸馬を追い込み神前に奉納する祀りの原点とも言える「野馬懸」が行われます。
期間中に行われるさまざまな神事は、戦に向かう武士たちが現代によみがえったかのよう。まるで戦国時代にタイムスリップしたような気分を味わえる大変壮大な神事です。
相馬野馬追は、「妙見三社」と呼ばれる3つの神社の合同祭礼として執り行われます。どの神社も元は妙見菩薩を祀っていましたが、明治時代の神仏分離によって、現在のご祭神は「天之御中主神」となっています。
妙見菩薩とは?
妙見菩薩(みょうけんぼさつ)とは、北極星や北斗七星を神格化した仏さまで、「星の仏さま」とも呼ばれています。
古くは人の運命を司る存在として信仰され、武士にとっては守り神・戦の神として篤く崇められてきました。現在では、開運、厄除け、商売繁盛、家内安全など、日々の暮らしに寄り添う諸願成就のご利益で知られています。
道教の星信仰をルーツに日本へ伝わり、仏教(密教・日蓮宗)や神道(天之御中主神)と習合しながら、武士階級から庶民へと広く信仰が広がりました。代表的な寺社は、能勢妙見山(大阪府)、清澄寺(千葉県)、千葉神社(千葉県)です。
相馬太田神社は、鎌倉時代の終わりころ相馬氏6代目・相馬重胤が鎮守である妙見菩薩を奉じて下総国から陸奥国行方郡へ移り住んだことに始まります。
現在の相馬太田神社の建つ地が相馬重胤の最初の居住地である別所舘跡とされ、相馬氏の奥州進出の起点となった場所となりました。相馬野馬追では、出陣式が行われます。

相馬小髙神社は、相馬重胤が居城となる小高城を築き別所舘から移った際に、鎮守である妙見菩薩も別所舘から移し祀ったことが始まりです。
その後、中村城への移転により、妙見菩薩も中村城内に祀られることになりましたが、小高の妙見社は信仰の場として残されました。相馬野馬追では最終日に「野馬懸」が行われ、裸馬を追い込み奉納する古式神事が今も受け継がれています。

1611年、相馬氏は小高城から新たに築城した中村城に居城を移しました。この時に小高城内に祀られていた妙見菩薩が中村城内に祀られることになったことが中村神社の始まりです。古くから「相馬の妙見様」として信仰されてきました。
現在の社殿は1643年に建立された権現造りで、国の重要文化財に指定されています。相馬野馬追では初日の出陣式が行われます。

前述の通り、相馬野馬追は3日間にわたって、いくつかの神事が行われます。
相馬野馬追の初日に行われる行事です。
藩政時代の行政区によって分けられた騎馬武者たちが、相馬中村神社・相馬太田神社・相馬小髙神社の3社にそれぞれ集合し、出陣式を行います。
出陣の準備が整うと大将が出陣を命じ、軍者の振旗を合図に螺役が法螺貝を吹き鳴らします。これが出陣の合図となり、総大将を中心とした騎馬武者たちが甲冑姿で市街地を練り歩き、一路雲雀ヶ原へ向かいます。
相馬野馬追の2日目に行われる行事です。
総勢約400騎もの騎馬武者たちが、甲冑に身を固めて太刀を帯び、先祖伝来の旗指物をなびかせながら進軍する戦国絵巻さながらの行列です。
午前9時30分、花火と陣螺の合図で出発し、相馬太田神社に供奉する中ノ郷勢を先頭に、相馬小髙神社に供奉する小高・標葉(しねは)郷、相馬中村神社に供奉する北郷・宇田郷勢の順で約3km先の雲雀ヶ原祭場地へ向かいます。威風堂々とした姿は「動く文化財」とも称され、野馬追の象徴的な見どころとなっています。

雲雀ヶ原祭場地で行われる人気競技で、相馬野馬追のハイライトとも言われている行事です。
正午、陣螺が鳴り響くと競技開始。兜を脱いで白鉢巻を締めた騎馬武者たちが、旗指物を背に砂煙を上げながら疾走します。旗をはためかせながら駆け抜ける騎馬武者は、迫力満点です。

甲冑競馬に続いて行われる、クライマックスとなる行事です。
午後1時、山頂の本陣から陣螺が響くと、数百騎の騎馬武者が雲雀ヶ原一面に広がります。花火が打ち上げられ、空中で炸裂すると、赤・黄・青の御神旗が舞い降り、武者たちが一斉に駆け出して奪い合います。旗の落下地点を巡る激しい攻防は戦場さながらで、祭りは最高潮に達します。

最終日に行われる、相馬野馬追の古い姿を残す最重要神事です。
相馬小髙神社の境内に設けられた竹矢来に裸馬を追い込み、白鉢巻・白装束の「御小人(おこびと)」が素手で荒駒を捕らえ、神前に奉納します。絵馬奉納の原風景に通じる厳かな儀式が、野馬追の締めくくりを飾ります。
数年前になりますが、相馬野馬追の関係者さんにご縁をいただき、相馬野馬追を見学する機会をいただきました。
残念ながらすべての神社や神事を見ることはできなかったのですが、ハイライトとなる甲冑競馬や野馬懸などは見ることができたので、その様子をレポートします。
前日に相馬に入っていた私たち。お祭りが最もにぎわう2日目の早朝から始まりました。
スケジュールをよく把握していないまま、眠気と戦いつつ連れていかれたのは街中。
ドナドナと連れて行ってもらったので場所はさっぱりわかりませんが、本当に何の変哲もない街中です。え、こんなところで何をするの?と思っていましたが、実はほぼ地元の人しか知らない行事でした。

2日目に開催される「お行列」は、戦の地となる雲雀ヶ原祭場地へ集落の人々が連れ立って向かう行事ですが、実はその前に小さな集団として集まったり、別の地域と連絡を取り合ったりしながら、集合場所へと向かうそうです。
やがて、騎馬武者姿の町の人たちが、次々と集まってきます。

まるで本当に昔の戦準備を見ているような光景。しかも、騎馬武者さんたちが、とにかく近い!え、これ、かなり貴重な光景じゃないですか!?と大興奮でした。

こうやって戦に出発していたのかなぁ…と、戦国時代に思いをはせながら見学していました。

続いて向かったのは、雲雀ヶ原祭場地。当初は会場で見ようと思っていたのですが、「ぜひここで見てください」と教えていただいたのは、会場の外。

え、なぜ?と思っていたのですが、答えはすぐにわかりました。
木々の間にあいたスペースから会場を見ることができるのですが、至近距離を騎馬武者たちが、颯爽と駆けていくのが見えるのです!会場からだと、こんなに近くで見ることはできません。馬が駆け抜ける重低音と、背中ではためく旗のバタバタバタという音。
そして、通り過ぎた後の風圧…迫力が桁違い!

続いて、神旗争奪戦。
花火と共に打ちあがった旗を追って、馬たちが一斉に移動する様子もまたすごい光景でした。密集する中で旗を取る様子は、本当に圧巻でした!
今回見学していた場所は、騎馬武者さんたちが出入りする場所でもありました。またまた間近で見る騎馬武者さんたち。めちゃくちゃかっこよかったです。
初回にこの景色が見えたことは、相馬野馬追の最高の思い出になりました。

お祭りの最終日は、小髙神社で行われる野馬懸神事を見学しました。
これが相馬野馬追の最も根源とも言える行事とのこと。ですが、実は前情報で、地味な行事と聞いていました。まぁ、神事だしなぁ、むしろ昨日の甲冑競馬を見たら何でも地味だろうなぁ~と思っていたのですが…
馬、めっちゃ暴れるやん…
狭い囲いの中に放された馬たちを白い装束の人たちが追いかけるのですが、馬が結構なスピードで走り回ります。
しかも、お約束らしく、なかなか捕まえることができない。
なので、馬はまた逃げる。惜しい!というシーンもあり、その度に「おお~」と上がる歓声。
そして、無事に捕まった時には、大きな拍手。かなり盛り上がる、全然地味ではない行事でした。

数年前に伺った際は、真夏に行われていた相馬野馬追。
実は同行者が熱中症で倒れるなど、当時から夏の開催は大変そうだなぁと感じていました。現在は5月に行われるようになったとのこと。時代に合わせた柔軟な変化ができることこそ、地域の方々が大切にしている行事だからこそだと感じます。
近年でも震災やコロナなどで継続が危ぶまれたそうですが、地元の方々のご尽力で2026年も無事に開催が決まっているそう。
ぜひ今後も長く続けていただきたい、すばらしい神事だと思います。午年に関する神事や神社はいくつかありますが、本当に見ごたえがすごい相馬野馬追。
午年である本年に行ってみてはいかがでしょうか。
かたちを変えながら受け継がれてきた相馬野馬追。この馬と土地に根ざした文化への誇りを目の当たりにすることができます。
本コラムは、こちらの団体に内容をご確認いただきました。
・一般社団法人相馬野馬追 さま
・南相馬市博物館 さま
