2026.07.26
仕事のため、6月13日(土)~16日(火)に台湾・台北を訪れる機会があった。
仕事の合間、巡縁を運営し寺社文化の継承と振興を考える立場として、龍山寺、行天宮、台北霞海城隍廟と3カ寺を訪ねた。
正直に言うと、私は寺院建築や運営方法、参拝者へのサービスなどを見ようと思っていた。
しかし、実際に目にしたものは、そんな表面的なものではなかった。
そこにあったのは、「生きている信仰」。
龍山寺でも、行天宮でも、城隍廟でも、驚くほど多くの人が参拝していた。
若者もいた。高齢者もいた。スーツ姿の会社員もいた。裕福そうな人もいれば、そうではない人もいた。
男女も年齢も関係なく、本当にさまざまな人たちが寺院を訪れていた。

台湾・台北市にある艋舺龍山寺
そして何より印象的だったのは、その祈りの真剣さだった。多くの人が長い時間をかけて祈っていた。
おそらく彼らは、それぞれ人生の中で何らかの課題を抱えているのだろう。
仕事のことかもしれない。
お金のことかもしれない。
受験のことかもしれない。
家族のことかもしれない。
健康のことかもしれない。
将来への不安かもしれない。
その答えや指針を求めて、神仏の前に立っているように思えた。
また、龍山寺では多くの人が神籤を引いていた。
日本のおみくじとは少し違い、神仏に伺いを立てながら真剣に向き合う姿があった。
お供え物の量にも驚いた。
果物や花、お菓子などが所狭しと並び、人々が神仏への感謝や願いを形にしていた。
私はそこで、はっとなった。
台湾の寺院は「生活者が必要とする存在として今も生きている。」ということだ。

お菓子・果実が所狭しと並ぶ、龍山寺のお供物
彼らは文化財を見に来ているのではない。
歴史を学びに来ているのでもない。
寺院の文化を守ろうと思って来ているわけでもない。
自分の人生のために来ているのだ。
祈るために来ている。
その結果として、寺院も信仰も文化も生き続けている。台湾には日本とほぼ変わらない生活水準の高さと社会インフラの発展がある。
それでも人々は祈っている。豊かだからといって、信仰が廃れるわけではないのだ。
一方、日本はどうだろう。
私たち寺社業界は、
「どうやって参拝者を増やすか」
「どうやって寺院文化を継承するか」
を考えることが多いように思う。
もちろん、それは大事なこと。
しかし、台湾での体験を通して、私は別の想いを持った。
それは、「人は何のために寺社へ行くのか」という問い。
そしてもう一つ、「現代人にとって寺社はどんな価値を提供できるのか」という問いだ。
寺社文化を守り、後世に伝えることは大切だ。
しかし文化は、守ろうとして残るだけではない。
人々に必要とされ続けることで残るのだと思う。

龍山寺の参拝者の様子|熱心に祈る姿が見られる
巡縁はこれまで、寺社の魅力や文化を伝えることに力を入れてきた。
しかし台湾で見た光景は、その先にあるものを教えてくれたように思う。
人は文化を守るために寺院へ行くのではない。生きるために寺院へ行く。
そして、その結果として信仰が守られ、受け継がれている。
寺社文化を伝えるだけではなく、日本人と寺社を再び結び直すこと。
日本人が寺社を必要とする理由を見つけること。
それができたとき、結果として日本でも寺社文化の継承にもつながるのではないか。
台湾の寺院で見た人々の祈りは、そのことを私に強く感じさせてくれた。
巡縁もまた、寺社の魅力や文化を伝えるだけでなく、人々と寺社との新たなご縁を結ぶ場でありたい。

台北市中山区・行天宮の門

辻本 武玄(つじもと たけはる)
株式会社 福生 代表取締役社長
幼少は法隆寺の境内を遊び場とした奈良県出身。
海外留学を経て日本文化の魅力を再発見。現在は株式会社福生代表取締役として、神社仏閣と人をつなぐ活動に取り組んでいる。
台湾・迪化街(ディーホアジェ)の歴史ある商店街に鎮座する城隍廟。
城隍神をお祀りする廟ですが、縁結びの神様「月下老人(月老)」へのご利益で世界的に知られ、台湾を代表する縁結びスポットとして多くの参拝者が訪れます。
住所
台北市大同區迪化街一段61号
TEL
(02) 2558-0346
参拝時間
午前6:16~午後7:47
アクセス
MRT北門駅から徒歩約10分
MRT大橋頭駅・雙連駅から徒歩約20分
台北市中山区に鎮座する、台湾を代表する道教寺院のひとつ。
関聖帝君(関羽)を主神としてお祀りし、商売繁盛や仕事運、厄除けのご利益で知られています。
台湾では線香や供物に頼らず、誠実な心で神様と向き合う参拝を大切にしていることでも有名です。
住所
台北市中山区民権東路二段109号
TEL
(02) 2502-7924
参拝時間
午前4:00~午後9:00(年中無休)
アクセス
MRT行天宮駅(中和新蘆線)3番出口から徒歩約5分
1738年創建、台北で最も歴史ある寺院のひとつ。
観世音菩薩をご本尊としながら、道教や民間信仰の神々もお祀りする、台湾ならではの多様な信仰文化を象徴する寺院です。
毎日多くの参拝者が訪れ、祈りの絶えない「生きている信仰」の場として親しまれています。
住所
台北市萬華區廣州街211号
TEL
(02) 2302-5162
参拝時間
午前6:00~午後10:00
拝観料
無料
アクセス
MRT板南線(ブルーライン)龍山寺駅 1番出口から徒歩約2〜3分
電音三太子(でんおんさんたいし)とは、台湾で親しまれている道教の神様「哪吒(ナタ・三太子)」をモチーフにした、台湾独自の民俗芸能です。大きな三太子の人形を身にまとい、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)に合わせてキレのあるダンスを披露します。
1990年代後半から、お祭りや廟会(びょうえ)で若者たちが伝統文化と現代音楽を融合させたことをきっかけに誕生。当初は「神様をこんなふうに扱うなんて不謹慎では」という声もあったそうですが、現在では台湾を代表する文化として国内外で親しまれ、スポーツイベントや国際的なフェスティバルでも披露されています。
※三太子は仏教ではなく、台湾で広く信仰されている道教の神様です。仏教・道教・民間信仰が自然に共存する台湾ならではの文化を感じられる存在でもあります。