りてん先生の山伏問答 〜⑤役行者さまのお話〜

りてん先生の山伏問答 〜⑤役行者さまのお話〜

2026.05.02

修験道初心者の巡縁ちゃんと、修験道の第一人者・りてん先生の山伏問答。

これまで3回にわたって、修験道のお話をしてくれたりてん先生。今度は、その修験道の開祖といわれる「役行者」について詳しく教えてくれました。

 

 

巡縁ちゃん:
ところでりてん先生、そもそも修験道って誰が始めたものなんですか?

 

りてんさん:
私が伝えたい山伏・修験道の世界を知るのにぴったりの質問ですね。

 

修験道の始まりは、今から約1300年前。飛鳥時代という日本の黎明期に、葛城山や吉野の峻険な山々を風のように駆け抜けた一人の行者がいました。

 

その名は、役行者(えんのぎょうじゃ)※ 役小角・えんのおづぬとも呼ばれます。

 

 

巡縁ちゃん:
役行者…あ、お札とかで見たことあります!何か、不思議な力がある人、というイメージです。

 

りてん先生:
そう。伝説では「鬼を自在に操った」とか「葛城山から金峯山に石橋を架けた」とか「全国各地の霊山を開山した」とか「空を飛んで海を渡った」、なんて言われているんですよ。

 

巡縁ちゃん:
えっ、そんなすごい伝説があるんですか!?

 

りてん先生:
そうなんです。

 

そんな摩訶不思議な話に彩られた行者さまは、一体何者だったのでしょうか? そして、役行者さまが命を懸けて切り拓いた「修験道」は、なぜ今の私たちにこそ必要なのか。その謎と魅力に迫ってみましょう。

 

 

1: 伝説のベールの向こう側にある「真実」

 

りてん先生:
役行者さまは、単なる神話上のキャラクターではありません。

西暦634年、大和国(現在の奈良県)に生まれた実在の人物です。当時の国家の公式記録である『続日本紀』にも、その名ははっきりと刻まれています。

 

巡縁ちゃん:
伝説がすごすぎて、本当にいた人だと言われると、びっくりしますね。

 

りてん先生:
そう、実在した、歴史上の人物なんですよ。

行者さまは葛城山を始め金峯山など全国の山々で修行を重ね、卓越した知識と精神力を身につけました。伝説では、呪術を駆使して鬼を弟子にし、人々に害をなす一言主神(ひとことぬしのかみ)を呪縛したと言われています。

あまりに強大な力を持っていたため、当時の朝廷に恐れられ、伊豆大島へ流刑になったという、ドラマチックな過去も持っています。

 

巡縁ちゃん:
朝廷に恐れられるほどの力を持っているなんて、本当に物語の中の人みたい。

 

りてん先生:
はい。でも、当時の人々にとって、役行者さまは単なる「行者」ではなく、人々の病を癒やして苦しみから救いだしてくれる、「民衆のヒーロー」だったのです。

 

2: 「修験道」という日本独自のハイブリッドな知恵

 

りてん先生:
役行者さまが生み出した「修験道」は、非常にユニークな宗教文化です。

古来、日本人は「山には神々が住んでいる」と信じてきました。これが、山岳信仰です。役行者さまはそこに、当時最新の教えであった外来の仏教、さらには道教や陰陽道を融合させたのです。

 

巡縁ちゃん:
まさに、ハイブリッドですね。信仰を融合させるというのは、とても日本らしいです。
普通の仏教と修験道には、どんな違いがあるんですか?

 

 

りてん先生:
一番の特徴は、役行者が「机の上の学問」よりも「身体による体感」を重視したことです。

 

「厳しい山に入り、自然の猛威に身をさらし、必死に祈る。その中でしか得られない真理がある」

 

この徹底した現場主義・実践主義こそが、1300年経った今もなお、私たちを惹きつけてやまない修験道の本質です。

 

役行者さまの有名な遺訓にも「身の苦によって心乱れざれば証果(悟り)自ずから到る」とあります。現場主義・実践主義が役行者さま以来続く、修験道の大切な要諦なのです。

 

3: 「蔵王権現」の出現と吉野の祈り

 

りてん先生:
吉野山から南に24キロ行くと、金峯山山上ヶ岳という霊山があります。一般に大峯山と呼ばれています。

この大峯山で役行者さまが一千日の修行中、乱れた世を救う仏を求めて祈り続けていた時のこと。

 

最初に釈迦如来が現れました。続いて千手観世音菩薩、更に弥勒菩薩が次々と現れたのでした。いずれも柔和で穏やかな仏様でしたが行者さまは「これでは今の荒んだ人々を救えない!」と退けられ、さらに祈りを続けられます。

そのとき、大地を揺るがして悪魔降伏の姿で出現されたのが、恐ろしい形相をした「金剛蔵王大権現(こんごうざおうだいごんげん)」さまでした。

 

役行者さまはその姿を山桜の木に刻み、山上と山下(吉野山)の地へお祀りしました。

 

巡縁ちゃん:
金峯山寺にいらっしゃる、怖いお顔をされた青い金剛蔵王大権現様ですね。
一見恐ろしい姿ですけど、じっと見つめていると優しいお顔に見える時もあります。

 

りてん先生:
そうですね。

金剛蔵王大権現は、「怒り」をもって人を導きます。それは、甘やかすのではなく、迷いを一喝して打ち砕く強烈な慈悲の姿を表しています。

 

これが、今も吉野に息づく祈りの原点なのです。

 

4:今、なぜ役行者なのか

 

りてん先生:
今の私たちは、デジタル化された便利な世界に生きる一方で、どこか「生きている実感」が薄れてはいないでしょうか。

SNSの評価や、効率、損得勘定……そんな「頭でっかちな檻」に閉じ込められ、心が疲弊しています。

 

巡縁ちゃん:
デジタルで何でも便利になったけれど、息苦しさで心が疲れてしまう。何かわかる気がします。

 

りてん先生:
役行者の教えは、その檻を打ち破るための処方箋です。「誰かの言葉をなぞるな。自分の足で歩き、自分の五感で掴み取れ」。

役行者が山で見出したのは、一度古い自分を脱ぎ捨てて、新しい自分として生まれ変わる「擬死再生」のプロセスなんですよ。

 

巡縁ちゃん:
簡単に手に入れられるものだけでは出会えない、生まれ変わった自分。ぜひ会ってみたいですね。

 

エピローグ:足元にある「聖地」への入り口

 

りてん先生:
役行者は、1300年前からずっと私たちに問いかけています。「本当のあなたはどう生きたいのか?」と。

 

巡縁ちゃん:
どう生きるかって、本当に難しいことですが。
それを、役行者さまは1300年も前から、私たちに教えてくれているということですか?

 

りてん先生:
その通り!行者さまを「謎の超人」として遠ざけるのではなく、一人の先駆者としてその生き方に触れてみてほしいですね。

吉野の山々を渡る風や、荘厳な蔵王権現の姿。そこに触れるとき、私たちはきっと、自分の中に眠っていた「本当の強さ」を思い出すはずです。

 

役行者の切り拓いた道は、今もあなたの足元から続いています。

 

 

 

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