2026.07.18
「えっ、お寺でカエルが飛ぶの!?」
——行事名を見て、思わず二度見してしまう方も多いのではないでしょうか。
その名も「蛙飛び行事」。天下の奇祭とも呼ばれるこの祭りは、奈良・金峯山寺で毎年行われています。奇抜な名前の奥にあるのは、人が過ちを悔い、もう一度歩み出すことを願う仏さまの慈悲。
長年この行事に出仕されてきた金峯山寺長臈・田中利典先生に、その魅力を教えていただきました。
金峯山寺の伝統法会「蓮華会蛙飛び」。
天下の奇祭と言われています。今日はその蛙飛びのお話。

「ばあーん、ばぁーん!」。
ドラの音が吉野山に響き渡ると、そのリズムに合わせて大きな青蛙がピョン、ピョンと飛び跳ねます。
毎年夏、金峯山寺で行われる伝統行事「蓮華会蛙飛び」。
初めて見る人は、きっと「えっ、お寺でこんなことをするの!?」と驚くでしょう。
以前、イラストレーターのみうらじゅんさんと雑誌で対談したことがありました。ところが、対談のテーマそっちのけで、みうらさんが熱く語っていたのは、この「蛙飛び」のこと。
「いやぁ、とにかくあのお祭りは最高に面白い!」と、そんなふうに何度も褒めてくださいました。
言われてみれば、その通りです。大青蛙の着ぐるみが主役になる宗教行事なんて、全国を探してもそうそうありません。しかも、その動きがなんともユーモラス。見ているだけで思わず笑顔になってしまいます。
長年、この行事を執り行う側にいると、それが当たり前になってしまいます。
でも、外から見れば、こんなにユニークなお祭りはなかなかないのでしょう。みうらさんと話しながら、そんなことをあらためて感じました。
それにしても、「蛙飛び」という名前も、なかなかインパクトがあります。
この行事は千年以上前から金峯山寺に伝わる蓮華会に付随する夏の法会で、主役はもちろん大青蛙。
昔は寺の僧侶が蛙役を務めていましたが、今では金峯山寺の門前にある草餅屋さんのご主人が、大青蛙の着ぐるみを身にまとい、見事な跳ねっぷりを披露してくださっています。
では、なぜ蛙なのでしょうか。
その由来は、こんなお話です。
平安時代、白河天皇のころ、大峯山へ登った一人の男がいました。
しかし、その男は神仏をあなどり、仏法を罵るような暴言を吐いてしまいます。
すると突然、大鷲にさらわれ、断崖絶壁の上へ置き去りにされてしまいました。
さすがの男も我に返ります。命の危険を前に、自分の過ちを深く後悔しました。
そこへ通りかかった金峯山寺の高僧が、その姿を哀れに思い、男を蛙の姿に変えて助け出します。
そして吉野山へ連れ帰り、蔵王堂で僧侶たちが読経すると、その功徳によって男は再び人間の姿へ戻ることができた――というのが、この行事の由来です。

この物語には、仏教ならではの大切な教えが込められています。
「親の因果が子に報い」という言葉がありますが、これは実は仏教そのものの教えではありません。
仏教では、「自らの行いは、自らがその結果を受ける」と説きます。善いことも悪いことも、自分の行いは自分に返ってくる。それが因果の教えです。
蛙になった男も、自分の過ちを悔い、心から反省したからこそ救われました。
どんな人でも、自分の間違いに気づき、改めようとする心があれば、新しい一歩を踏み出せる――そんな希望も、この物語は伝えているように思います。
笑って見られる蛙飛びですが、その奥には、人を責めるのではなく、人が立ち直ることを願う仏さまの慈悲が息づいています。
毎年この行事に出仕しながら、「蛙飛び」に込められたそんな仏法の心が、一人でも多くの人に伝わればいいな、と願っています。
笑って楽しんで、そして少しだけ心に残る。そんなお祭りだからこそ、千年もの間、人々に愛され続けてきたのかもしれません。

今年の蛙飛び行事は終了しましたが、蓮華会・蛙飛び行事は毎年7月7日に執り行われます。
大青蛙の愛らしい姿に思わず笑顔になり、その由来を知ると、きっと見える景色が変わるはずです。
来年の夏は、ぜひ吉野山・金峯山寺を訪れ、千年以上受け継がれてきた祈りのひとときを体感してみてはいかがでしょうか。

田中 利典
京都府綾部市・林南院住職。金峯山寺長臈、種智院大学客員教授。1955年京都府生まれ。龍谷大学、叡山学院卒。修験道の歴史や祈り、受け継がれる文化を、誰もが親しみを持てる言葉で伝えている。
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