りてん先生の山伏問答 〜⑥女性と修験道のお話〜

りてん先生の山伏問答 〜⑥女性と修験道のお話〜

2026.07.12

仏教初心者の巡縁ちゃんと、修験道の第一人者・りてん先生の山伏問答、第6弾です。

前回は、修験道の開祖・役行者さまのお話を聞かせてくれたりてん先生。

今回は、ちょっとデリケートだけど、時代的にも気になっている人も多いはずの「女性と修験道」について、お話をしてくれました。

 

修験道って、女人禁制なんですよね?

 

りてん先生:

先日、ある講演を終えたあとに、一人の女性に声をかけられました。

 

「修験道って、女人禁制なんですよね?」

その瞬間、少し戸惑いました。でもすぐに「ああ、そういうイメージなんだな」と気づいたのです。

 

たしかに、私たちの根本道場・大峯山の山上ヶ岳は昔から女人結界のある修行場で、いまでも大峯山寺一帯は女人禁制が守られています。

 

なので「修験道=女性はダメ」という 印象を持たれるのも無理はありません。
でも、結論から言うと――修験道そのものは、決して女人禁制ではありません。

 

巡縁ちゃん:
えっ、そうなんですか!?私も女性はダメだと思っていました。

 

りてん先生:
明治までの昔はどの霊山も女人禁制の時代がありましたが、現在では全国各地の山の修行に、たくさんの女性が参加されています。

 

また、修験道の中心となるお寺(醍醐寺・聖護院・金峯山寺など)では、女性の行者さんや僧尼もたくさんいます。

 

特に金峯山寺では、男女の数比がほぼ半々。思っている以上に、女性の存在は大きいのです。

しかもいまでは、奥駈修行や護摩行、伝法潅頂など、山修行だけでなく、さまざまな修行に女性も男性同様に参加しています。

 

つまり、「修験道=男性だけのもの」という時代では、もうないのです。

 

巡縁ちゃん:
知らなかったです。半々って、すごいですね!

 

修験道は在家信仰ー金峯山寺の高祖会大法要

修験道は在家信仰ー金峯山寺の高祖会大法要

 

そもそも修験道は在家信仰

 

りてん先生:
そもそも修験道は、はじめから在家の信仰として、男女ともに開かれていました。

 

開祖・役行者の時代から、「男性も女性もともに信仰する」というのが基本なのです。

 

巡縁ちゃん:
確か、前回お話を伺った、役行者さまの御付きの「前鬼・後鬼」も、夫婦。

 

つまり、片方は女性なんですよね。

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りてん先生:

そうですね。

 

ただし一方で、山上ヶ岳のように、修行の場として女性が入れなかった歴史も確かにあります。

女性たちは、直接山に入るのではなく、家で祈り、支える形で関わってきました。いわば“見えない支え手”だったのです。

 

でも今は時代が変わりました。

 

女性が社会のあらゆる分野で活躍する中で、修行の世界だけが例外であり続けるのか――そんな問いが生まれているのも自然な流れでしょう。

今も女人禁制が続く大峯山上ヶ岳大峯山寺

今も女人禁制が続く大峯山・山上ヶ岳の大峯山寺本堂

 

先日、奈良国立博物館で、「神仏の山ー吉野大峯特別展」(4/10-6/7)が開催されました。

 

期間中、大変な注目を浴び、約19万人の参観者で大いに賑わいましたが、この特別展で、女人禁制の大峯山寺から、秘仏の御本尊金剛蔵王権現が初めて山を下りて、出開帳として、展覧会の中心に出陳されました。

 

その秘仏の前で、一心に手を合わすたくさんの女性の姿を目の当たりにして、大峯も大きく変わる時代が来たと確信をしました。

 

巡縁ちゃん:
私も見に行きましたが、たくさんの方が手を合わせていましたね。

 

もちろん、私も合掌して拝見しました。

美術館の光景とは思えないですが、すばらしい仏像たちに、自然と手を合わせたくなる気持ちになりました。

 

なぜ女人禁制が生まれたの?

巡縁ちゃん:

でも先生、そもそもなぜ女人禁制が生まれたんでしょうか? 女性はダメ、なんて、現代では、差別的な意味に捉えられてしまいがちですよね。

 

りてん先生:

そこを少し説明させてください。
この「女人禁制」は、もともとは少し違った意味合いから始まっています。

 

そのルーツは奈良時代です。僧尼令というお寺での修行の規範が定められ、僧侶の規律が出来ました。その中で、仏道修行を守るために「男女がむやみに接触しないようにする」というルールが作られたのでした。

 

つまり本来は「女性だけダメ」ではなく、「男子禁制」と「女子禁制」は並行して生まれのです。「男女ともに制限があった」わけです。

 

巡縁ちゃん:

最初は男性にも制限があったんですね。

 

りてん先生:

そうなんです。それが時代の流れの中で、女性側だけが強く残ってしまい、現在の「女人禁制」という形になっていきました。

 

さらに、厳しい修行の場である山岳信仰では、「俗世から離れる」という意味でも、禁制が重視されるようになります。

 

そうして、大峯山のような特別な場所では、その伝統が長く守られてきたのです。

 

これからどうなる?女人禁制

巡縁ちゃん:

では、これから先の時代、この問題はどうなっていくんでしょうか。

 

りてん先生:

この問題は、簡単に「残すべき」「やめるべき」と言い切れるものではありません。

 

守りたい人たちにとっては、女人禁制は長い伝統の象徴であり、修行の厳しさを保つ大切な仕組みでもあります。

 

一方で、男女平等の考え方や社会の変化、開かれた信仰のあり方を考えると、「このままでいいのか?」という声が出るのも当然です。どちらも、決して間違いではないのです。

 

巡縁ちゃん:

答えや考え方が一つじゃないからこそ、ちゃんと考え続けることが大事なんですね。

 

りてん先生:

その通りですね。

 

大切なのは、「伝統か、変化か」ではなく、どうやって両方を大事にしていくか。

 

たとえば、期間限定で女性の入山を認める方法や、結界のあり方を見直すなど、いろいろな可能性も考えられています。

 

すでに大峯山以外の霊山のほとんどが女人禁制を解いて久しいのも現実なのです。

 

 

これからの修験道と女性

りてん先生:

最後に、いちばん大切なことをお伝えしたいと思います。

 

それは、修験道をこれからどう生かしていくのか、という視点です。

 

女人禁制をどうするか、という問題ももちろん大事ですが、それ以上に、山の尊厳をどう守るか、信仰をどう次の世代へ伝えるか、自然とどう向き合うか――女性の登山ブームが沸き起こる中、こちらの方が、もっと本質的なテーマだと私は思っています。

 

そしてこれからは女性もまた、その直接の担い手なのです。これまでのように支えるだけでなく、ともに歩む存在としての役割は大きいと期待しています。

 

巡縁ちゃん:

他人事ではなく、女性も自分のこととして考えていく時代、ということですね。

女性行者による採灯大護摩供

金峯山寺で行われている女性行者による採灯大護摩供

 

りてん先生:

そうですね。
ちなみに、金峯山寺では一般の方が気軽に参加出来る「体験修行」という山修行の公募もしています。

女人禁制の地域に入る行程は残念ながら男性のみの募集ですが、「女性のための体験修行」として大峯山の山中を修行する日程も開催しています。

 

修験道は、古いようでいて、実はこれからも変わり続ける道だと思っています。

 

山の修行の在り方も大きく変わっているのです。
その中で、女性の関わり方もまた、新しい形へと広がっていくはずだと、私はずっーと願ってきましたし、間違いなく変わって来ています。

 

巡縁ちゃん:

修験道がもっと身近に感じられました。
変わっていく修験道の行く末、これからも巡縁で追いかけていきたいと思います。

 

筆者プロフィール

田中利典
PROFILE

田中 利典

たなか りてん

京都府綾部市・林南院住職。金峯山寺長臈、種智院大学客員教授。1955年京都府生まれ。龍谷大学、叡山学院卒。修験道の歴史や祈り、受け継がれる文化を、誰もが親しみを持てる言葉で伝えている。

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