「禅と仏教・やさしく解説」第1回 達磨さんから始まる禅宗物語 その二:達磨さんは弟子を甘やかさない

2025.06.08
皆さんこんにちは裏山たぬきです。
またお会いしましたね、裏山たぬきです。お元気でしたでしょうか?
前回の第1回は、達磨さんがインドから中国へ渡り梁の武帝と問答をしたところまでのお話をさせてもらいました。
今回は達磨さんがお弟子さんにどうやって禅の教えを紡いでいったのか、そして達磨さんの物語の最後とは・・・といった所をお話させていただこうと思います。
達磨さんがお弟子に紡いでいった禅の教え
達磨さんは弟子を甘やかさない
達磨さんは武帝と問答をした後に梁の金陵を去って、揚子江の北側にある北魏という国の都である洛陽(現代の河南省)に向かいました。
洛陽に着くと都を一望できる嵩山少林寺というお寺に滞在されました。
この少林寺は日本でも少林寺拳法など武術で有名なお寺で、この武術は達磨さんが伝えたという伝説も残っています。
達磨さんはこの少林寺で壁に向かって坐禅の修行を始めます。来る日も来る日も壁に向かって坐禅修行を行っていると、インドからやって来た高僧が少林寺で修行をしているという噂が広まっていきます。
神光の願い
ある時、達磨さんの下に神光という僧侶がやって来ます。
神光は大変勉強熱心で仏教の教えを沢山学んできましたが、いくら勉強しても心にある悩みを解決できませんでした。
そこで、達磨さんの教えを請いに来たのです。
神光は壁に向かって坐禅をしている達磨さんの所へ向かい、弟子にしてくれるようお願いをしますが、達磨さんは一言も発せず見向きもしませんでした。
それでも神光は諦めず入口の前で立ち達磨さんが応えてくれるのを待ち続けました。
外では雪が降り始めどれくらいの時間が経ったのか、神光の足元はすっかり雪で覆われて膝も隠れてしまうほどとなった時、達磨さんが遂に言葉を発しました。
「なんだまだ居たのか。何をしに来たのだ」
神光は、
「どうか私に仏の真理をお教え下さい」
と達磨さんに願い出ますが、
達磨さんは
「仏の真理はそんなに軽々しく聞けるものではない。命をかけてこそ手に入るものだ」
と神光に覚悟を問います。
すると神光は懐から刀を取り出し、自らの腕を斬り落として達磨さんに差し出しました。
その命をかけた覚悟を見た達磨さんは神光の弟子入りを認め慧可という名を授けました。
現代に伝わる慧可大師の覚悟
現代の禅宗の僧侶たちはこの慧可大師の覚悟があってこそ今に達磨さんの法を受け継いでいるのです。
黄檗宗では、大本山萬福寺にある修行僧の専門道場に入堂する際に修行僧は誓約書を出すのですが、その中の一文に「喪心失命を顧みず」という文言があり、修行に向かう覚悟を示しています。
これはきっと慧可大師の覚悟に習ったものなのだと、たぬきは思います。
達磨さんは一言で不安を取り除く
神光は慧可と名を改めて達磨さんの下で修行を続けたのですが、慧可が達磨さんから心の安心を得たという有名なエピソードが「無門関」という書物に残されています。
「達磨安心」というお話です。
達磨安心 〜不安の正体〜
修行を続けても心の中に不安がある慧可は、ある時達磨さんに尋ねます。
「師よ。私の中に不安な心があるのです。どうか私の不安な心を取り除いて下さい」
すると達磨さんは、
「では、その心をここに持ってきて見せてみろ」
と返します。
慧可はこの不安な心は一体どこにあるのかの考えますが、一体どこにあるのか一向に見つかりません。
そこで慧可は、
「師よ、どれだけ探しても不安な心が見つかりません」
と答えました。
すると達磨さんは、
「・・・そうだろう。どうだこれで安心できただろう」
慧可はこの一言で、ハッとお悟りを得たと云います。
自分の心に有ると思っていた不安は、自分自身が作り出した実体のない不安だったのです。
私たちも先が見えないと不安に感じたりしますが、それは見えない未来を思い勝手に不安を感じているだけで、本当の問題ではないのです。
達磨さんは見えない先の未来に恐れたり、不安になるのではなく、今というこの瞬間を大切に一所懸命に歩んでいくことが大切であると教えてくれたのです。
達磨さんは慧可と共に修行を続けながら禅の教えを伝えていきました。
諸説ありますが達磨さんには慧可の他にも3人のお弟子さんがいたとも云われています。
達磨さんの禅って一体なに?
では、達磨さんの教えとはどういうものだったのでしょうか。
達磨さんの弟子たちが達磨さんの教えを残したと云われる書物の中に「二入四行」という教えがあります。これは、「理入」と「行入」という修行の考え方と「四行」という四つの実践法です。
まず、「理入」とは、理論や経典、また言葉によって悟りを得る修行法で、「行入」とは、実践によって悟りを得る修行法です。
そして「四行」とは、この「行入」を行う四つの実践法のことです。
なんだか段々と難しくなってきましたね。
でも大丈夫!たぬきが分かりやすくお話します!!
(・・・ですが、「理入」については、また今度にしましょう。)
四つの方法「四行」
達磨さんは修行を行う際に仏教の理論や経典をしっかりと学ぶことが大切だと仰っています。
しかし、勉強だけではダメで、そこに実践が伴わなければいけないとも仰っています。
そこで、その実践をするために次の四つの方法を示しました。 これが「四行」です。
一つ目は、「報怨行」。
苦しみが訪れた時、自分自身が招いた自業自得のものである。だから他人を恨まず忍耐しなさい。
二つ目は、「随縁行」。
縁というものに従いなさい。それは自分が過去に行った種まきによって縁が結ばれているので、一喜一憂してはなりません。
三つ目は、「無所求行」。
求めることや執着することによって苦しむのだから、道理に適わない感情で求めたり願ったりしてはなりません。
四つ目は、「称法行」。
全てのものは元々浄い心を持っている。このことをよく理解して、六波羅蜜(悟りの境地へ到るための修行)を心がけなければなりません。
これらの四つの実践法を「坐禅」という行を通じて行っていくというのが達磨さんの教えだと云われています。だから現代の禅宗でも坐禅というものを大切に行っているのです。
達磨さんの旅のゆくえ
さて、これまで達磨さんの生まれから、旅立ち、そして弟子とその教えについてお話してきましたが、最後に達磨さんの物語の終わりについてお話をしましょう。
達磨さんの最後についてはいくつかの説がありますが、一番有名なのは最後は毒殺されたという話です。
達磨さんの旅の最後・・・
ある時達磨さんは僧侶達と経典に関して議論をしていました。達磨さんは彼らの間違いを指摘していましたが、達磨さんの活躍を苦々しく思っていた彼らは達磨さんの食事に毒を入れて殺そうとしました。
達磨さんは何度も食事に毒を盛られましたが六度目には、自分には法を受け継いだ弟子も出来たのだから何も惜しむことはないと覚悟を決め坐禅をしたまま永安元年(528年)10月5日に150歳でお亡くなりになられたそうです。
こうして達磨さんの物語に遂に終わりがきてしまいました。
達磨さんは自身の教えに人を怨んではいけないと伝えています。
たとえ毒を何度も盛られても達磨さんのお話に彼らを怨むような言葉は見つかりません。きっと妬んだり怨むことの虚しさを自分の命をもって伝えたのではないでしょうか。
達磨さんの旅は続いている・・・
実は、達磨さんには亡くなられた後日談の伝説があります。
達磨さんが亡くなられて3年後に中国の北魏という国の外交官をしていた宋雲という人物がインドから帰国する途中、片方の靴を持って歩く達磨さんに出会いました。
宋雲は
「達磨さんではないですか?どこへ行かれるのですか?」
と尋ねます。
達磨さんは
「インドへ帰るのだ。お前さんの主(皇帝)は既に亡くなっているぞ」
と言って去ってしまいました。
宋雲は帰国すると実際に皇帝は亡くなっており、その後人々が達磨さんは生きているのではと思ってお墓を開けてみるとご遺体はなく、片方の靴だけが入っていたというお話です。
達磨さんは本当は生きていて生まれ故郷に帰られたというのは夢のあるお話ですよね。
そして、達磨さんの教えはこうして私達に繋がり続けています、そういう意味でも「達磨さんの旅は続いている」と言えるのかもしれません。
達磨さんが教えてくれる
よく達磨さんの絵などを見ると、達磨さんは怖い顔をしていて睨んでいるように感じませんか?
達磨さんが厳しい顔をしているのは他者に対してではなく自分自身に厳しく接しているからなのです。
それは達磨さん自身も私たちと同じ一人の人間として執着やこだわる心を持っているからこそ自分を甘やかさずに厳しさをもっているのです。
そう思って達磨さんをもう一度見てみて下さい。そのお顔は睨んでいるのではなく、自分を戒めている力強く凛々しいお顔に見えてきませんか?
たぬきは達磨さんのお顔を見るたびに背筋が伸びる気がします。
達磨さんは現代の私たちにも諦めない心やこだわらない心を教えてくれていて、不安に怯えている時は、
「その不安とやらをここに見せてみろ。その心は自分自身が作り出したものだぞ」 と励ましてくれているのです。
今でも多くの人々の心を照らす達磨さんの教え
達磨さんが伝えた禅の教えは現代に伝わり、今でも多くの人々の心を照らしてくれています。
達磨さんを知ることは禅の教えの原点を知ることですから、皆さんにとってこの記事が禅を知る一助になれればたぬきは幸せです。
さて、次回は達磨さんが伝えた「坐禅」がテーマです。「坐禅って何?」「どうすれば良いの?」などなど坐禅についてのお話をさせていただきます。どうぞお楽しみに!
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