2026.03.14
3回にわたって、りてん先生に修験道についてのお話をしていただきました。
今回は、山のルールについてのお話から、現代社会が抱える問題のお話に発展しました。

巡縁ちゃん:
先生、前にお山の話をされていましたよね。あのときの“声を掛け合う”っていうの、ちょっと気になってて……もう少し聞いてもいいですか?
りてん先生:
ええ、いいですよ。
私たちの根本道場は奈良県吉野郡にある大峯山山上ヶ岳です。
そこに登拝する山上参り修行にはルールがあって、必ず、山の中で行者同士がすれ違ったり出会ったときには、「ようお参り」と声を掛け合います。
巡縁ちゃん:
“こんにちは”じゃないんですね。
写真 : 田中利典 先生 Facebookより
りてん先生:
そう。挨拶なんだけど、お互いの修行をねぎらい、お互いの幸いを祈るという意味合いもあるんですね。
夏の盆山(お盆の時期に登ること)なんかは、いくら登拝者が少なくなってきているとはいえ、ものすごい数の人に会いますから、ようお参り、ようお参りって声を掛け合うだけで、もう大変です。
巡縁ちゃん:
わぁ、何だか目に浮かぶようですね。
りてん先生:
正直、盆山には行きたくないというくらい何度も言わなければならないんです(笑)
でも、これは山修行の最低限のルールです。
修験のお山には大峯山だけでなく、そういった独特のルールがあったのですが、近年はどこの山でもだんだんと忘れ去られている。
巡縁ちゃん:
それも時代の流れなんでしょうか。
りてん先生:
残念なことですね。
昔は、関東近郊でも修験道はたいへん盛んだったのですけれど、明治期の神仏分離政策と修験道廃止令の施行によってほんとに減少するんですよね。
巡縁ちゃん:
神仏分離政策と修験道廃止令!
修験道は、大ダメージを受けたと言われていますよね。

写真 : 田中利典 先生 Facebookより
りてん先生:
「神仏分離政策」と「修験道廃止令」は、明治政府が神道と仏教を切り離し、国家神道を中心にするために行った政策で、結果として修験道は一度なくされてしまいました。
修験道は、山岳信仰・神道・仏教が混ざった宗教です。そのため神仏分離を推し進めていた明治政府は1872年に、修験道を正式に廃止。山伏は僧侶か神職になるよう命じるという 修験道廃止令 を出します。
これによって多くの山伏が職を失い、長い歴史をもつ修験道は一度、公的には消滅しました。
信仰そのものは山の中で続き、戦後になって修験道は再び認められるようになりますが、私たちの住む関西とは比べようもないほど、関東周辺は絶滅の危機に瀕したそうですよ。ですからそういう山でのルールが消えて、声を掛け合うようなこともあまりないと聞いています。まあ、修験登山そのものが死滅してるわけですからね。
巡縁ちゃん:
まさに、文化ごと消えてしまったということですね。
りてん先生:
でもね、私は山修行だけではなくとも、声掛けって大事なことだと思っています。
山行ではないのですが、東京都内のある末寺に行ったときに、夕方、近所の子どもたちが帰ってきて目の前を通りがかったので、「お帰りなさい」って声をかけたら、そこの住職に「そんなことしちゃダメですよ」と注意されたんです。
巡縁ちゃん:
えっ、どうしてですか!?
りてん先生:
都会では見知らぬ子どもに声をかけるのはいけないことなのだそうです。「えーっ、なんでやねん」って思いました。
都会では、知らない人に声をかけられたらそれは危ない人だと思え!と教えられている、といわれました。
巡縁ちゃん:
確かに、防犯という考え方もありますが…
りてん先生:
「なんちゅうところにみんな住んでるのんや」って思いましたよ。でもそれが大都会なんでしょうね。それも、わからなくはない。
しかし、私の住む田舎では、今も近所の子どもが通りかかれば、知らない家の子どもさんでも「お帰り!」と声を掛けると、「ただいま」って返事してくれますからね。これって、とても心地よい社会だと私は思いますが、違うのでしょうかねえ。

巡縁ちゃん:
とてもいい光景ですね。それが許される環境というのが、とても尊い感じがします。
りてん先生:
都会のマンションなどで、エレベーターの中でこんにちはとか、おはようございますとか言うと、それに答えられない人がたくさんいます。挨拶ができない人がこんなにいるのかと、本当にびっくりします。
巡縁ちゃん:
私も経験したことがあります。
ご近所の人の顔も知らない、ということも多いですもんね。
りてん先生:
人と人とのふれ合いを拒絶し続ける社会…
なにかが壊れている前兆なのか、なんだか未来が心配になりますね。
巡縁ちゃん:
山だけでなく、日常生活の中でも自然に声がかけられるような世界になるといいですね。
りてん先生:
そうですね。
挨拶って、最低限のルールだと思うんです。
山だけじゃなくて、日常生活でも自然にできる社会が続くことを願います。

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